久保田麻美(くぼみ)さん
Procreate を活用しながらグラフィックレコーディングの活動をする、UI/UXデザイナーのくぼみさんに、お話を伺いました。グラフィックレコーディング(以下、グラレコ )とは、会議や講演の内容をイラストや図、文字を使ってリアルタイムにまとめていく手法です。
グラレコに失敗はない?とにかく場数を踏む修行時代
議論の要点をビジュアル化することによって、参加者によりわかりやすく共有できるのが特徴です。議論を活性化する効果があり、近年さまざまなビジネスシーンで注目されています。
グラレコでは、聞いた話の要点をリアルタイムに手早くまとめることが重要です。このスキルを身につける上で大切にしたのは、とにかくアウトプットをすること。
そのために役に立ったものは、TED などのプレゼン動画や、興味のあるテーマの対談映像でした。「話を聞きながら、その内容を構造化し、ビジュアル化をする。」このサイクルに慣れるために、毎日仕事後に動画を観ながらリアルタイムにアウトプットする練習を重ねました。
そして、知り合いを通じてグラレコの初仕事が舞い込んできました。企業のトークイベントで、ステージ上でグラレコを行うという依頼でした。しかし喜ぶのはつかの間、イベントの開催日は、10 日後だったのです。
初心者がまず一番不安に思うことは、「その場で失敗しないか」ということ。くぼみさんの考えは違いました。
『まだ経験もないのに、いきなり人前に立ってグラレコをするというのは正直とても不安でした。でもよく考えると、グラレコには失敗という失敗ってあんまりないなって気づいたんです。そのトークイベントはあくまで登壇者のトークがメイン。グラレコはそこに寄り添ってプラスアルファの価値を提供するもの。なのでその時は失敗を恐れずとにかくやってみて改善していこうという気持ちで挑みました。』
デジタルだからこそできる、自由な表現
くぼみさんがグラレコを知った当初、グラレコではホワイトボードや模造紙といったアナログな道具が使われることが主流でした。しかしくぼみさんは、デジタルだからこそできる自由な表現に魅力を感じ、当初から iPad × イラストアプリを使ったデジタル グラレコをおこなってきました。
『紙だと描き直せないし、一度描いたものを後から動かすこともできなくて。でもデジタルだと、後から編集できますよね。ブラシやカラーの種類も自由自在に選べて、表現の自由度もあるなと思います。』
数あるイラストアプリの中で、くぼみさんは、Procreate を使っています。グラレコと Proceate はどのような点で相性が良いのでしょうか。
一つ目は、 ブラシのクオリティ 。
『Procreate には何百種類もの質の高いブラシが用意されています。鉛筆風やマーカー風、水彩風など、会議のテーマや雰囲気に合わせてブラシを選べるのがいいですね。さらに Procreate ではブラシの設定を細かく調整できるので、私は自分好みの手書き風ブラシを自作したり、よく使うイラストや図形をスタンプブラシとして登録して使ったりしています。他にも、手ぶれのある線を綺麗に補正してくれるストリームライン機能があり、急いで描いたイラストや文字も読みやすく補正してくれて重宝しています。』
二つ目は、タイムラプス動画。
『グラレコが描かれるプロセスは、すなわち論議のプロセスでもあります。それをタイムラプス動画で時間軸に沿って振り返ることができるので、参加者からすごく好評なんですよね。議論に参加できなかった人に AirDrop で簡単に共有もできますし。』
グラレコがうまくいく、3 つのコツ
「絵がうまい人しか、グラレコはできない」と思われがちですが、重要なのは上手な絵を描くことではなく「伝わる絵」を手早く描くことです。と、くぼみさんは言います。では実際に、どのような点に気をつければ良いのでしょうか?
グラレコのコツを 3 つ教えていただきました。
① 絵を描くコツは「置き換え」
グラレコを行う際にはリアルタイムで対話の内容を記録していくので、上手に描くことよりも、手早く伝わる絵を描くことが重要です。なるべく簡単な線や図形に置き換えながら、伝えたいことをシンプルに表現するよう意識しましょう。
② 9割のものは◯△□で描ける
置き換えに使う図形は、丸、三角、四角です。意外にも、たいていのものはこの3つの図形で表現することができるんですよ。しかも、QuickShape を使うと綺麗な図形を簡単に描けます。
③ 人物も記号の組み合わせで簡単に描ける
難しいと思われがちな人物も同様です。丸を描いて、口、目、眉のパーツを組み合わせて書き込むだけで、誰でも簡単に何通りもの表情が描けるようになります。あとは四角で胴体を描いて、手足となる4本の線を付け足せば、あっという間に人物の完成です。
チャレンジし続けることで見つけた、新たな目標
くぼみさんはこれまで、ビジュアルコミュニケーション の可能性を信じ、グラレコに関する発信やチャレンジを続けてきました。
『グラレコの最大の魅力は、「会議チームの共通言語」になれることです。例えば、言葉では伝わりづらいことも、絵や図なら伝わることがあります。お互いの理解が高まったり、チームが前に進むことは、チームにとっても個人にとっても良いことだと思います。』
そして現在は、デザイナーの領域を離れて、新たな挑戦をしています。それは、「アメリカのオンライン大学院で、コンピューターサイエンスを学ぶ」ことです。
実は昔から、絵を描くことに加えて理数科目が好きだったくぼみさんは、大学時代は情報デザインを専攻し、デザインとプログラミングの基礎を学んできました。
デザインの業界を突き進んできたくぼみさんにとって、「デザイナー × エンジニアリング」で活躍する人は、憧れでもありました。良いデザインにはエンジニアリングの視点が必要だと感じていたからです。
『今の目標は、デザインとエンジニアリングをつなぐ架け橋になることです。デザイナーさんとも、エンジニアさんともコミュニケーションできるみたいな。この新たな目標に、「ビジュアルコミュニケーション」は何か役立っていくんじゃないかなって思っています。
振り返ると私の人生はいつも、思いもよらない方向に行ってたりしますね。今もその途中だなって思います。この先、どうなっていくんだろう。』
くぼみさんは、興味のあることは「まずはやってみる」精神を持ち合わせていたからこそ、本当に進みたい道を見つけられたのかもしれません。
これを機にグラレコに興味を持った方は、くぼみさんのTwitterとInstagram を訪れてみてください。グラレコのコツや Procreate の活用方法を紹介しています。