受賞経験のあるイラストレータであり、アニメータであり、誇り高きオレゴン出身の Cari Vander Yacht 氏の才気あふれる陽気な作品群は、エネルギッシュなアイデアと力強いユーモアの宝庫です。New York Times 紙、Nike、Google に採用された作品や、Wrap サイトで取り扱っている一般向けの製品ラインでは、いつでも笑顔とちょっとした考えるきっかけを提供しています。
Cari Vander Yacht 氏のエネルギーは、その作品と同様、瞬時に人の心を惹きつけます。物理的にも比喩的にもじっと座っている性分でない Cari 氏を、ブルックリン拠点のスタジオでめったにない休み時間につかまえることができたのは好運でした。「昔のケチャップ工場を他のイラストレータ 4 人とシェアしています。もうケチャップは製造していませんが、今まで注文したハンバーガーにもれなく付いてきたケチャップの小袋なら山のようにありますよ。」
優れたアーティストや、児童書のイラストレータ、社説のイラストレータと空間を共にすることで、Cari 氏が必要なときにインスピレーションや専門家の意見に困ることはありません。「心が折れそうになりますけどね。だって、非凡な才能の持ち主ばかりだから」と冗談交じりに語ります。「ランチを食べている大きな共用テーブルがあるんですが、ときどき一緒に絵を描いたりもするんです。買っておいた大判の紙を広げて、単にリラックスしたり話したりしながら。それとは別にそれぞれのデスクスペースもあって、要するにそれが各自のスタジオですね。とはいえ、完全にオープンな空間なので、そこが気に入っています。」
一見シンプルでありながら、アイデアとユーモアにあふれる Cari 氏の作品には、見た者をその場で瞬時に納得させる力があります。作品のシンプルさはその魅力と同じく考え抜かれたものです。「あるときふと、ユーモアのあるアイデアを最も効率的に伝える手段って何だろうって思うようになって。それからは、アイデアを最も簡潔に表現する方法を探して余計なものを削りながら、見た目の面白さも諦めずに追求してきました。どちらも正しいやり方などないので、簡単にはいきません。」
「答えを見つけようと猛烈に努力しましたし、今も絵の見た目をなるべく面白くする方法を模索し続けています。まだまだ試してみる余地はあると思うので、途中でつまずいたりよろめいたりしながらも楽しんでいます。私はいろんなスタイルを試行錯誤するのが好きですが、結局は、自然と望む描き方に落ち着く人がほとんどではないでしょうか。そしてある程度は、そこにその人の本質があるといえるのかもしれません。」
Cari 氏のイラストレーションやアニメーションは、ストーリーテリングを目的として、人物や物体を中心とする極度にフォーカスを絞った作品です。「では、なぜワンシーンを切り抜いたスポットイラストレーションを通じて自身のアイデアを表現することにしたのか」という質問に対して、返された答えは意外なものでした。同氏は冗談半分でこういいます。「一番の理由は、周りの背景を描くのが嫌いなこと。建物を描くのが嫌いとか、たとえばそうですね…遠近法を真っ先に避けたいとか」。ここで改まって次のように続けます。「スポットイラストレーションでは、実際に周りの背景をほとんど加えなくてもかまいません。そのほうが共感を得やすくなります。ディテールが少ないほど、多くの人が欠けた情報を補おうとするからです。適度に情報が少ないほうが効果は高まります。ストーリー性に頼る場合は特にそうです。」
視覚的コミュニケーションを促すアイデアに基づく同氏の創作プロセスは、多くのクリエーターと同様、スクリーンから離れたところから始まります。最初にアナログツールを使うことで、ある程度自由な創作が可能になります。そして最も重要なのは、ミスしても 2 本指でタップしてやり直せない点だといいます。「特にペンと紙の予測不可能なところが好きです。ミスが格段に増えますが、私にはそれがかえって楽しいと思えます。」
アイデアを練り、発生する思いがけない嬉しいアクシデントを受け入れるこの手法は、Cari 氏がイラストレーションを本業とする前の仕事をうかがわせるものです。「アイデアのブートキャンプに参加するような感じでした」と、同氏は声のトーンを上げて広告業界でアートディレクタを務めた 6 年間を生き生きと語ります。「…創造力に富んだ、とてつもなく優秀でマニアックな人たちと一緒にいた経験は、非常に啓発的なものでした。彼らの部屋に入ると、とても素晴らしいインスピレーションの数々が壁一面に貼ってあるんですから。この仕事には正しい方法などないと気付きました。とにかくインスピレーション 'what inspires you' をうまく活かして、刺激になる何かをそれに近づけるようなものだと。それを知ることはものすごく刺激的で、強い関心を抱きました。」
“本腰” を入れる段階になると、Cari 氏は創作に向けた実際的なアプローチを取ります。現代のアーティストに提供されているツールはすべて駆使して、それぞれの表現手段が持つ個々の強みを活かします。「Procreate はお気に入りです。私の大きな Cintiq (液タブ) と紙へのスケッチの中間にあたる面白い位置付けにあります。まったく異なるツールです。スタイラスを使用するのとも、ペンと紙を使うのとも違う。完全に独自の路線を行っているといえます。Procreate で描いた自分の作品と、他のプログラムで描いたものや紙に描いたものには違いがあるとわかります。私はその違いをとても気に入っています。Procreate では、どちらかといえば線画のイラストレーションを楽しんでいます。( Procreate で) 描画を始めるのは本当に面白くて、繊細な作業がやりやすいです。」
アニメーション作品でも、Cari 氏は Procreate がもたらす直感とテクノロジが交差する感覚を楽しんでいます。「アニメーションアシストはとても楽しいです。作品によっては、オニオンスキン機能を利用してフレーム単位で作業しています。とりとめのないアイデアが浮かんだときは、とにかくざっと描いてからうまくいくか確認できて便利です。(アニメーションでは) いろんなアイデアを試せる魅力的な機能です。パソコンというよりは手描きに似ていると感じます。まさに紙を使うのに近い感覚です。そんなところが面白いですね。」
同氏が伝える視覚的なストーリーは、エッジを効かせながらも、粋なユーモアや味のあるスタイルによって丸みを帯びたものになることが少なくありません。分娩の様子を描いた出産祝いのカードや、ウンチをする犬のクリスマス飾りは、見ているうちにその味わいがわかるようになるものもありますが、Cari 氏ならいつでもそれらを味わい深いだけでなく、完全に愛らしいものへと再現することができます。「エッジの効いた作品や、その傾向のある作品を制作する際には、誰かを犠牲にすることがないように気を付けています。とにかく共感の力を信じているんです。たとえば、『やったね !』と書かれた出産祝いカードのようなものの場合、そのカードをつくりながら、『出産って難しくて、恐ろしくて、野性的だ』と感じていました。『生まれたての赤ちゃんを迎え、何もかもが美しい』といったものはすでにいくらでも出回っているし、どれも素敵だと思うんですが、その一方で『1 人の人間を体内から押し出すなんて、すごい』とも思うわけです。」
生命と、そのどうしようもなさに対する鋭い観察眼が、人々の共感を呼ぶインサイトを伴って Cari 氏の作品に命を吹き込んでいます。しかし、そのような観察眼を具現化するのに必要なのは、並々ならぬ努力だけではありません。「意識的に世界に目を向け、その本質を捉える必要があります。休暇に出かけたときや初めて引っ越ししたときに、あらゆるものが大切になるような感じです。どのハトも特別だし、タバコを吸っている一人ひとりも特別。太陽光線の一つひとつもそう。まさにもう一度世界に恋をするように。つまり、アイデアを受け入れる状態でいるということです。」
それは、Cari 氏がのんびりとアイデアが訪れるまで待つということではありません。「私はアイデアを思い付くことも、可能性について考えることも大好きです。脳という歯磨き粉のチューブを中身が完全に空っぽになるまで絞り出したいのです。」
同氏のアイデアと可能性の探究は、ページの垣根を越えて実際の物体へも変換されています。彼女が手掛けた犬のクリスマスオーナメントは、たちまちヒットを飛ばしました。特に行儀の悪い犬が Procreate のお気に入りとなっています。それは Procreate だけにとどまりません。「私はウンチをする犬をとても気に入っています。1 年を通してのお気に入りです。すごく滑稽ですよね。だって、このような小物を描くときには、『小物にしてはあまりにも奇抜じゃないか ?』って心配になるのに、うまくいって人気が出たら、『やっぱりそれほど奇抜じゃなかった』って思うんですから。犬を飼っている人なら、特に問題がなければ 1 日に何回も目にするものです。もちろん、みんなウンチに愛着があります。」
アイデアを取り入れて、世界の魅力を感じる時間を持ちます。その後、本腰を入れてそれを具現化しなければなりません
Cari 氏は、自身のイラストレーションに命が吹き込まれたのを目にして大喜びしたと振り返ります。「サンプルが送られてきたとき、箱の中には 50 個入っていました。一つひとつ個包装されていたんです。私はまさにマクドナルドのハッピーセットをゲットした気分でした。こんなにたくさんのおまけがもらえた、という。目の前にあるいろんなおもちゃを子どもが手に取るときに感じるような根源的な気持ちです。ハンドメイドなのでどれも少しずつ異なります。完全に『かわいい』の詰め込み過ぎで、本当に胸がいっぱいになりました。」
かわいい犬のハンドメイドオーナメントを自身のやりたいことリストから実現しながらも、同氏はまだやるべきことがたくさんあると感じています。「これ 'my work' はもっと奇抜なものにできると思っています。2023 年の抱負の 1 つです。一番は、私の作品を何か奇抜なものに載せること。より大規模な計画を個人的に策定するつもりです。イラストレータとしてまだやりたいことリストから実現すべきことがいくつもあります」。Cari 氏は少し落ち着きを取り戻しながら、すべてのアーティストが追従すべき賢明なアドバイスを残してくれました。「当面の基本的な予定として、少しばかり自分の気まぐれに従って、そこから何が生まれるかを確かめるつもりでいます。」
Cari 氏が手掛けた “超情熱的な” 作品は、Instagram 、自身の Web サイト 、および Wrap ページで見ることができます。