ロボットに命を吹き込むクリエイター 天神英貴

インタビュー2023年10月13日

新しいものが大好きだった少年時代

子どもの時から、ガンダムやスター・ウォーズといったアニメ・映画に登場するメカのイラストを描くのが好きだった天神さん。80年代にファミリーコンピュータが一世を風靡すると、ドラゴンクエストなどの目が荒いドット絵を、あたかもリアルな世界にいるかのように再現して描くようになりました。

『昔から、新しいものや、見たことがないものが好きでした。当時ゲームの世界観は、若者たちが作ったイマジネーションがあふれる世界でした。それらをリアルに感じたかったのかもしれません。』

多くの人にとってロボットは、命あるものではなく「ただのモノ」かもしれません。しかし天神さんにとっては、冷たい鉄の塊ではなく、人間と同じように地球から生まれたあたたかい存在と考えていました。

『金属は地中から掘り起こされたもの。地球から生まれたという観点では、人間もメカも同じ自然なものなんですよね。メカの魅力は、それ単体ではなくて人間が使うことに集約されていると思います。我々は誰かに貰ったアクセサリーを大切に身につけるように、実はメカ(機械)も思い出の塊なんですよね。作品中で、「こんなことをこれに乗ってやり遂げたんだ」とか。誰かが使った、こんなことを一緒にやったっていう、愛ある存在なんです。人間と固いもの(ロボットやアクセサリー)が、一緒にいることによって初めて魅力を発揮する。それって素敵じゃないですか。』

ロボティクスの世界からイラストレーターの世界へ

ロボットに魅了された天神さんは、大学ではロボット工学を専攻しました。しかし30年前は、ロボティクス技術がまだ開発段階で、それらに携わることはできませんでした。そして、追い討ちをかけるように、バブル景気の崩壊。就職氷河期。学生たちは就職に困難を強いられ、選択肢も少ない状況でした。そんな時に天神さんを救ったのが、子どもの頃からずっと描き続けていた「絵」のスキルでした。

「絵」を仕事にしようと考えたきっかけは、大学の学園祭。

大学で初めて学んだコンピュータ・グラフィック(CG)の経験を生かし学園祭のオープニングムービーの制作を担当しました。2週間大学に篭りっきりで制作した作品は、テレビで放送できるほどの反響を呼びました。周囲の人たちが喜んでいる姿をみて「表現の世界も良いかもしれない」と思い始めたのです。

大学卒業後は、3次元コンピュータ・グラフィックス(3DCG)のソフトを使って、3D モデリングの仕事を始めました。3D モデリングとは、3DCGの制作工程の一つで、3D 空間内に単純な形の立体などを組み合わせ、望みの立体物の外形を形作る工程のことを指します。

キービジュアルの仕事を続けているうちに、「絵が描けるのなら、時間をかけて 3D 作るのよりも、最初から絵を描いた方が合理的じゃないか?」と思いはじめました。それが、イラストレーターへの道の転換でした。

たゆまぬ情熱と仕事への向き合い方

天神さんの仕事は、作品について徹底的に調べることから始まります。中途半端な知識では、絶対に描き始めません。作品の時代背景や、作中に使用されている音楽、その作品の全てを知ってから、ファンが何を求めているのかを導き出します。長い時間・知識・技術・情熱を凝縮して一枚にまとめたのが、彼の作品なのです。

『情熱が足りない商業的な絵は、ファンに一瞬で見抜かれてしまいます。満足できる作品は、結局どれだけ情熱を注げたかです。まさに恋愛と一緒。一人の人にどれだけ愛を注げるのかみたいな。だから僕は情熱を注げない仕事は絶対にしないので、結果的に関わらせて頂いた仕事は全部大好きです。』

 たゆまぬ情熱を絵に注いできた天神さんは、時にスランプに陥ることはないのでしょうか?

『なったことはありません。上手く描けない時は、スランプは、技術的な問題というよりも、情熱の傾け方が足りないと思うので、モチベーションがちゃんとできていない状態ではまだ描かないようにしています。』

リアリティの追求

現実の世界に存在しないものを描くときは、「環境」をいかに丁寧に描くかが肝だと天神さんは言います。例えば、ロボットの横に壊れた信号機を描くとします。その信号機が、ロボットの膝下に位置すると、このロボットはとても大きくて迫力あるものだと私達は認識します。つまり、比較対照するものでそのものを判断しているのです。

 『未知のものは、荒唐無稽(こうとうむけい)のように思えるけど、身近なもので例えばはしごをかけることによって、現実の世界との繋がりを持ち、そこに存在するように錯覚するんです。ゴジラの世界観を例に挙げると、どんなにゴジラの着ぐるみを制作しても、その大きさはそのままです。周辺環境である街のミニチュアを丁寧に作れば作るほど、ゴジラは大きく、そして本物になっていくんです。』

一枚の絵から物語や臨場感を表現する技術に、大きな影響を与えたものが二つあります。

一つは、「声優業のために続けてきた演技の勉強」。

演技の勉強を通じて、自分の精神をコントロールしながら、喜怒哀楽を学んでいきました。例えば、演技の世界では冷たいコップを自分だけが冷たいことを理解していても意味がありません。第三者にも、その冷たさが伝わるように演技することで、「冷たいコップ」として認識されるようになるのです。演技で物語を表現できるようになると、演技と絵の表現手法が結びつき、絵の中でも感情ある物語を作れるようになりました。

二つ目は、小学校時代から習ってきたさまざまな国の「武道」。

新しいものが好きな天神さんにとって、武道を通じて違った文化を享受することが喜びでもありました。そして、そこから学んだポージングは、絵の世界でも生かされてきました。

『ただ単にポーズをするのではなく、意志を持って行われているポージングは、その空間だったり、画面を支配するというか。今まで何が起きて、これから何が起ころうとしているのかまでをも伝える動きを描く上では、とても勉強になりました。』

Procreate との出会い

イラストレーターの仕事を始めた時は、PCペンタブレット・Photoshop を使用していた天神さん。過去には、PCペンタブレットの開発に携わっている時期もありましたが、2011年に Procreate がリリースされると、iPad x Procreateで作品を作るようになりました。

『Procreateを初めて触った時、秒でわかる心地よさがありました。子供の頃に出会った「紙と鉛筆」のように、本当に書いて楽しいっていう気持ちが、久々に湧き上がってきたアプリだったんですよね。Procreate のシンプルなユーザーインターフェースが好きです。そして、何より描き味。ナリンダーペンシルを初めて使った時は、衝撃でした。』

現在は、アニメ業界の監督やイラストレーター、そして天神さんの師匠たちにも Procreate を広めているそうです。

『業界のプロフェッショナルに、僕のカスタマイズした Procreate を触らせると、線を引いただけで、みんな「うわあ!」とびっくりします。絵が上手い人ほど、Procreate の良さを理解できる方が多い。僕の師匠の一人の宮武 一貴さん(代表作:宇宙戦艦ヤマトのデザイン)にもお勧めしました。70代ですが、絵がとっても上手な方なので、すぐ使いこなせると思っています。』

未来への期待とメッセージ

近年ではロボティクス技術が発展し、飲食店の配膳ロボットやお掃除ロボットなど、私たちの生活にも身近になってきました。

2022年には、三精テクノロジーズ株式会社によって、世界初の4人が乗れる4足歩行ロボット「SR-02」が開発されました。天神さんは、このロボットのデザインに携わり、ロボット完成後に乗車した時は「感無量」の気持ちだったと言います。

『今後もっと多種多様なデザインが実現できる世界になると良いですね。これまではデザインして、大量生産して、みんなが同じものに乗ることが当たり前でした。しかしこれからは、それぞれの好みに合わせてカスタマイズしたり、個性を出すためのハードの可能性がすごく高まっているような気がします。』

©️三精テクノロジーズが開発した巨大4足歩行ロボットの外装デザイン

イラストレーターから声優、メカのデザインまでマルチに活躍する天神さんですが、最近では、日本のみならず海外イベントにも登壇する機会が増え、活躍の場を広げてきました。

これから、どんな新しいことにチャレンジしていきたいのでしょうか。

『言語を超えて、世界各国の誰が見ても伝わる、みんなが感動するような、目がキラキラするような、新しいものを作りたいです。それはドローンなのか、新型のディスプレイなのか、具体的な形はわかりませんが、みんなが見たことないものにチャレンジしてみたいですね。

あとは、デジタルアートの可能性にも興味があります。デジタルタトゥーだったり、メイクや髪型・洋服などをデジタルアートと融合させて、その日時々によってなりたい自分や個性を表現できたら、面白いですね。』

子どもの頃から興味関心が広く、新しいものが好きな天神さん。

「好きなことを追求していたら、今の自分になっていった」と自身の人生を楽しそうに振り返っていました。

夢中でゲームの世界やロボットの絵を描き続ける少年時代のように、ワクワクした表情で未来について話す姿は印象的でした。天神さんの情熱と絶え間ない努力の原動力は、ワクワクへの追求心から来るものなのかもしれません。進化するテクノロジーと、天神さんの変わらぬ追求心が融合して、これからどんな作品が生まれてくるのか。今後の活躍に注目です。

天神さんの公式ホームページTwitter そして Instagram から彼の様々な作品をご覧になれます。そして、記念すべき画業25周年の個展が原宿で12月1日から開催されます。

天神 英貴(てんじん ひでたか)

ハセガワの「マクロス」シリーズ、BANDAI SPIRITSのガンダムを始めとするMG(マスターグレード)シリーズ、スター・ウォーズのプラモデルのボックスアートを描く。また、アニメ『マクロスゼロ』、『マクロスF』、『創聖のアクエリオン』のメカニックアート、『ヘルシング』『マクロスΔ』『ナイツ&マジック』ではメカニカルデザイン、フルCG映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』イメージボードなど、アニメーションの分野でも活躍している。また、『STAR BLAZERS: SPACE BATTLESHIP ヤマト2205』では、メカニカルイメージとアニメーションディレクションを担当した。

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