サンディエゴ育ちのファッションデザイナー、Jonathan Cohen 氏は、入学したパーソンズ・スクール・オブ・デザインでビジネスパートナー (兼ブランド CEO) の Sarah Leff 氏と出会います。明るく大胆な色使いをクラシックなデザインに取り入れたラインアップを特徴とする Jonathan Cohen ブランドは、「ブランドを構成するあらゆる要素にサステナビリティを織り込むこと」で常に進化を遂げています。夫の大統領就任式の前夜に Jonathan Cohen ブランドを着用したことで知られる Jill Biden 夫人をはじめ、世界のファッションリーダーの支持基盤を自律的に成長させてきました。
Jonathan Cohen と Sarah Leff の両氏は、卒業直後2011 年にニューヨークを拠点とするファッションブランド「Jonathan Cohen」を立ち上げました。Sarah は次のように振り返ります。「大学 1 年生のときには会社を一緒に興そうと決めていました。専攻は私が経営、Jonathan がファッションでした。私たちは常に話し合い、助け合い、サポートし合う関係であり、まさに正しい運命の力が私たちを引き合わせてくれたといえます。大学卒業後は他所で働きましたが、やはりこのブランドを共同で立ち上げてみることが大切だという結論に至りました」。懸命に努力し、自律的成長を遂げながら、何度か苦境にも立たされましたが、ファッション界で自然と一目置かれる存在にまで成長し、世界中に大きな影響をもたらしています。
Jonathan と Sarah のつながりは、同ブランドをこれほど特別なものにしている「運命の力」において大きな要素です。Jonathan はこう語ります。「Sarah と私は 2 人揃ってブランドです。一緒に会社を立ち上げ、経営の浮き沈みを共に経験してきた仲です。パートナーであり一心同体の関係にあるといっても過言ではありません。どちらも日々の意思決定に深く関わり、各自の『役割』を持ちながらも日頃から積極的に議論を交わしています。経営とデザインの違いはあれど私たちは密接に関わり合い、ずっとそれでやってきました。どちらも多くの役目を果たしています」
良好なパートナー関係の例に漏れず、その関係は極めて困難な状況に陥ったからといって終わるものではありません。さらにはコロナ禍が、Jonathan Cohen での変化を促す大きなきっかけとなりました。工場や店舗がほぼ一夜にして閉鎖され、ファッション業界がストップしたことで、Jonathan Cohen ブランドは既製服のコレクションの一時中断を決定。両親との隔離生活の間に、Jonathan は、新たなビジネス展開のチャンスをもたらす現実問題へのクリエイティブな解決策にたどり着きます。
「花束が私の母宛てに届いたんです。私たちはドアを開け、私がおそるおそるその花束に消毒スプレーを吹きかけたのを覚えています。花束は枯れてしまい、本当に悲しくなりました。『なんてことだ。今後は花を楽しむこともできなくなるのか?』と思ったんです。そこで、それらの花束のスケッチを始めました。友人や Sarah に感謝のしるしとして贈ったり、単に人々とつながりながら私自身が何かに打ち込んでインスピレーションを得るための手段としようと考えたわけです」
「散歩中に Sarah に電話して『デジタル花束のアイデアを思いついた』と伝えると、彼女から『私もまったく同じことを考えていた!』という答えが返ってきました。私たちは『Our Flower Shop』を開設し、まずは花瓶に花が生けられた 6 種類の小さなデジタルブーケのイラストから始めました。それらのブーケを当社のWeb サイトから購入できるようにして、それにカードを添えたのです。それぞれのメッセージを書くのは私です。ブーケをお手頃価格で販売し、そこから一定の割合を当時切実に支援を必要としていた慈善事業に寄付しました。すると、たちまち注文が殺到するようになったのです」
Jonathan は iPad の Procreate でスケッチから始まり、わずか数週間で何千件もの注文を受けるようになった「Our Flower Shop」のおかげで、Jonathan Cohen 氏は、「開設日から母の日までの期間でメーリングリストが約 5000% 拡大しました。歌手の Kelly Clarkson からも母の日のアレンジメントの注文を受けました。人々がつながりを感じられる何かをひらめくことができたことがとても嬉しかった。なかには Our Flower Shop を通じてパートナーに愛を告白した人もいました」と話します。Sarah氏 は「コロナ禍の期間、私たちは現状を理解するとともに極めて迅速な意思決定を行うことができましたが、それがかえって良い結果につながったと思います。ブランドとしても、人としても、サステナビリティや自分たちにとっての意義などを考えるうえでも、自分たちのあり方に忠実に行動できるようになりました」
Jonathan と Sarah は「サステナビリティ」のブランドの取り組みの中心に絶えず存在してきたものです。ブランドの一部には、アップサイクリングの衣類やリサイクルされた生地が常に取り入れられてきました。Jonathan が Procreate を利用するのも、コレクションごとに大量の (多いときには 3,000 枚に上る) 紙が必要になるためです。「Sarah と私は、『廃棄をどれだけ出しているか、スケッチにどれだけの紙を無駄にしているかに目を向けよう』と言い続けてきました。そして、無駄を減らすための小さな一歩として私たちにできることは何かを考えたのです。友人から Procreate を紹介してもらったのはそのときです。翌日には、『待てよ、考えていたのと全然違うじゃないか』と愕然としました。手間がかなり省かれ、おまけに画面の移動が格段に容易で紙より楽だと感じたのです」
今や Jonathan Cohen のコレクションは、創作プロセスの最終段階で 20 ~ 30 枚ほどの再生紙に印刷されるだけになりました。環境負荷の削減効果は大きいものの、それだけがデジタルワークフローのメリットではありません。当初はこの点に懐疑的だった Jonathan でしたが、「『実際にこちらの方が視認性がいい』と驚きました。色の調整を行う必要がないため、生地に印刷したときの出来が格段に上がるのです。それに、iPad からパソコンに移動できるので、ペイントしたものをスキャナで取り込んだり、写真を撮ったりする作業も必要ありません」と語ります。続けて Sarah が、「スケジュールも大幅に変わりました。以前は初期のファイルデータから生地まで進むのに 6 週間かかっていましたが、今では 6 日間で済みます」と言うと、さらに Jonathan がこう説明します。「印刷で思ったとおりの色を出せるようになり、印刷時にメモを付ける必要がほぼなくなりました」
さらにJonathan は、「Procreate はとにかくあらゆるプロセスを合理化してくれます。目が覚めて、iPad を掴んだら、すぐにアイデアを書き留めることができる。しかも単なるメモ程度ではなく、アイデアをとことん再現することが可能です。以前なら、出張時には必要な画材一式のほかにライトボックスまで持ち歩いていました。狂気の沙汰でした。そのうえ、重くてかさばる紙の束を飛行機に持ち込むのです。常に専用の鉛筆を携帯していたので、旅行中に紛失してしまえば一巻の終わりです。そうした時間や過剰な労力をすべて省くことができれば、アイデアが浮かんだ瞬間に書き留めることが可能になります」
Sarah はこう続けます。「また、関係者同士の連携手段も変わりました。たとえばアイデアを出し合ったり、プリントデザインの活かし方を検討し合う場合、Jonathan の手元には衣装デザインと同じ場所にプリントデザインも保存されています。そのため、誰かが色の変更を希望しても、Jonathan はそのデータを呼び出すだけで済みます。また、プリントデザインの一部を呼び出して、自宅、ショー、さらには店舗で、共同作業できる方法を検討したいと誰かが希望しても対応できます。Procreate のおかげで、まさにすべてが良い方向に進んでいます」
デザインの考案は 2 シーズン分を同時に行うことが多いため、Jonathan Cohen での創作プロセスはその周到さと同様に広範囲に及びます。「私の脳内の映像はとても映画的で、絵コンテ風にアイデアを練ることが非常に多いです。その後、リサーチも徹底的に行います。どんなものでもリサーチに 1 ~ 2 か月はかけているでしょう。そのリサーチでヒントを見つけ、方向転換していきます。これらはすべて、スケッチをまだ始めていない段階での話です。そしていよいよ話の本筋に入ります。1 つのプリントデザインから始めて、そこから別のプリントデザインへとつなげます。ここまで来たら、Sarah の出番です。私のアイデアが出揃った時点で私の脳内の動きを熟知している彼女なら、すべてを短時間で編集してくれるからです。プリントデザインの工程が終わったら、それらのデザインを印刷する生地を選びます。続いてそれを基にシルエットを決め、次の工程に進みます。非常に長いプロセスです」
この「非常に長いプロセス」によって、Jonathan Cohen は思慮深く目の肥えた支持者を得て注目を集めています。「支持者の皆さまは創造性とアートとクラフトの価値を真に理解されています。制作に時間をかけ、量産を行わない当ブランドにとって、とても重要なポイントです」。Jill Biden 夫人は、大統領就任式の前夜に一揃いの Jonathan Cohen ブランドを身に着けただけでなく、その後も同じ衣装を着用している姿が見られています。「クローゼットに収められた当ブランドの服の価値を本当に理解してくださっているこの方のことは、常に私たちの話題に上がってきました。人生の大切な舞台で着用された後も、高く評価して着続けていただいています。学校行事にも着ておられました。この組み合わせを着用された場所を並べ上げるとそうそうたるものです。当ブランドのプリントデザインの自由奔放さは 10 年後も変わらないだろうと、私たちはよく話しています。何年経っても時代遅れに見えないことは、とても重要な評価基準ではないでしょうか」
いつまでも色褪せない服を作ることはブランド目標の 1 つといえるかもしれませんが、Jonathan Cohen は、適切なタイミングで華々しく登場することがブランドの証明になることも知っています。その一例として、Lupita Nyong’o が映画『ブラックパンサー / ワカンダ・フォーエバー』 (2022年) のメキシコプレミアで着用した「Birth of the Rose」と呼ばれる素晴らしい衣装が挙げられます。ふくらみのある赤いガウンに身を包んだ Lupita の姿は、数年前に成功を収めたゴールデングローブ賞のレッドカーペットパフォーマンスを彷彿とさせましたが、そのガウンを劇的に脱ぎ去った下から現れたのは衝撃的な黒のレザードレスでした。Lupita と Jonathan に共通するメキシコの遺産へのオマージュとして、最新の劇場よりも唯一壮観だったのが、実際のファッションそのものだったと言えます。
「8 月からこの衣装に取り組んできました。私の家族はメキシコシティ出身ですが、彼女もメキシコ生まれだったのには驚きました。メキシコに赴き、彼女の準備と最終的なフィッティングを手伝って、プレミア会場に行かなければなりませんでした。それは私個人にとって、家族の出身地であるという理由だけでも特別な瞬間だったといえます。プレミア会場に行けるなんて信じられないことです。私の父がどういうわけかレッドカーペットのインフルエンサの列に忍び込んで、母と FaceTime で通話していました。すごい体験でした。私たちにとっては大きな出来事です」
ディテールにこだわった 「Birth of the Rose」 は、純然たる Jonathan Cohen ブランドです。まったく新しい、環境にやさしいレザーの硬化プロセスによって、Jonathan は初めてこの素材を作品に取り入れることができました。また、“バラと棘” のテーマは衣装のバックルにまで反映されています。「このバラと棘のバックルのスケッチを行った後、ロサンゼルスに拠点を置く優れた会社と連携して制作に当たりました。スケッチと見比べてみれば、手描きのディテールが施されたバラの緻密さに驚かれることでしょう。この成形されたバックルを見た瞬間、わけもわからず感情が揺さぶられました。 Sarah が 『大丈夫?』 と聞いてきたくらいです。とにかく自分が描いたものに命が吹き込まれ、ベルトのバックルになるという経験は、素晴らしいとしか言いようがありません」
二人三脚ではじめ、ファッションブランドとして独立し、さらには世界のファッション界の表舞台に堂々と立つまでになった Jonathan Cohenのアート、クラフト、業界に対する情熱は今も冷めることなく、その大きな成功要因となっています。私たちは、Procreate を使用して成功を収め、変化を生み出そうとしているクリエイターの皆さんとの出会いを大切にしています。これは、「自分の信念体系に忠実であれば、大きく道を外れることはない」という Sarah の言葉に端的に表れています。
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